YASUAKI SHIMIZU
YASUAKI SHIMIZU & SAXOPHONETTES
MARIAH
FILM DANCE MIXED MEDIA
PRODUCTIONS COMPOSITIONS ARRANGEMENTS CONTRIBUTIONS
 
 
 
PENTATONICA
ペンタトニカ
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サキソフォネッツが到達した、はかなく、懐かしく、グラマラスで、官能的な5音音階


2007
CD
ビクター VICL-62359
PENTATONICA - YASUAKI SHIMIZU & SAXOPHONETTES
ON LOCATION
1.   Dolomiti Spring
ドロミティ・スプリング
 
2.   Hibi no Awa
日々の泡
3.   Hattorun
はっとるん
4.   Tokyo Taboo
トウキョウ・タブー
5.   Atame
アタメ
6.   Pentatonica
ペンタトニカ
7.   Dolomiti Spring (solo)
ドロミティ・スプリング(ソロ) 
8.   Yoitokosassa
よいとこさっさ
9.   Hoho Jugatsu
ほほ・じゅうがつ
10.   Tew Semagn Hagere
テュ・セマン・ハゲレ
11.   Kiwa
きわ
12.   Koega
コエガ
13.   Endeneh Belulegn
エンデンネ・ベルレンニュ
14.   Sarasa
さらさ
15.   Hiru
ひる

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プロデューサー: 清水靖晃、リサ・スキアヴォン
作曲:清水靖晃、エチオピア伝統曲 (10, 13)を除く

清水靖晃:テナーサキソフォン、ソロ(7, 12, 14)、ヴォーカル(10)
江川良子、林田祐和:テナー/ソプラノ(5) サキソフォン
鈴木広志、東 涼太:バリトンサキソフォン

レコーディング: 叶 眞司
ミキシング:清水靖晃
ディショナル・ミキシング:叶 眞司
録音場所:コア石響(東京)、BankART Studio NYK (横浜)
ミキシングスタジオ:サブマリン、パスウェイ(東京)


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コメント
"穏やかでいてスリリングなサキソフォンたちの戯れ。
まるで音符が空間を浮遊してゆくような、
まるで旋律が時間を漂流してゆくような、
音楽と演奏の真にマジカルな達成が、ここにはある。"
(HEADZ 佐々木敦)

"エチオピアの伝統音楽って日本の民謡みたい。清水靖晃は数年前からエチオピアの旋律をサックス合奏のために編曲してぼくらを仰天させたが、今度はその先に跳んでいる。『ペンタトニカ』を聴くと、アフリカ大陸東北部と日本列島の東北部が空間のよじれでつながってしまった空想の国、エチオ・ニッポニアに迷い込んだかのようだ。首都は恵比寿アベバ、元国王は灰田セラシエ、マラソン・コーチは安部兵衛(あべべえ)。タイトル曲「ペンタトニカ」はらくだ引きの馬子唄、「トウキョウ・タブー」はナイトクラブのオリエンタル・オンド・ダンサーのお気に入り、「よいとこさっさ」は三橋美智也の持ち歌、ナンセンスなまじない歌に化けた「テュ・セマン・ハゲレ」は実はコプト教の御詠歌。この瞬間移動で、砂漠は森になり、音の湿度が上がった。こういう湿り気のある残響、いいねえ。サキソフォネッツもコブシを出せるようになって、二重丸。やれ、それ、ほんだららー。"
(音楽評論家 細川周平)

"スペイシーな空間にサックスの音が浮遊している。
その透明かつ深遠な感じ…
清水靖晃がサキソフォネッツと創り出した音楽は、どのジャンルにも属さず、またうまく言葉で説明できる類いのものでもない。
でも、それがかけがえのない魅力を持ったものであることは間違いない。
この新作で僕は前以上に深く遠いところまで連れていかれてしまった。"
(プロデューサー 立川直樹)

"やわらかくて、あったかくて、懐かしい響きにしばし時を忘れました。"
(音楽評論家 北中正和)

"五音音階、6/8拍子、黒魔術的な雰囲気で世界中の音楽好事家や音楽家を虜にしたエチオピア音楽。「暗黒河内音頭」とでも呼びたいその奇妙な音楽性に、近年バッハをテーマにしたサックス作品を作り続けていた清水靖晃が反応した。新生サキソフォネッツが描き出すのは、5本のサックスによる五音音階の対位がもたらすヨーロッパ〜東アフリカ〜日本のノーマンズ・ランド!"
(よろずエキゾ風物ライター サラーム海上)



【ライナーノート】
神秘と野蛮
エティオピア音楽にインスパイアされたペンタトニック(5音階)な音楽と、通常の欧米型ポップ・ミュージックで用いる7音階の音楽を一緒にやる。そんなアイデアを最初に清水靖晃から聞かされたのは2年ほど前だったと思う。いや、両者を混ぜ合わせるのではなく、交互にやるということだったかもしれない。いずれにしても、90年代にテナー・サックスによるバッハ作品のソロ・パフォーマンスで喝采を浴びた清水が、今度は、ペンタトニック・モードにも挑戦するということだけでも、十分に話題になるとその時は思った。おまけに今度は、ソロではなく若手サックス・プレイヤー4人を加えたクインテット・スタイルだというし。

しかし僕は、大きな期待と同時に、若干の危惧も抱いていた。主にアジアやアフリカなど非西洋圏の大衆音楽(もちろん日本の演歌も含む)で用いられるペンタトニック・モードを、万能のサックス・プレイヤー清水靖晃が演奏したからといって、物珍しさからくる驚きや笑い以外に何か新しいものが生まれるのだろうか。あるいは、西洋(7音階)と非西洋(5音階)という、いわば水と油のような関係にある二つの世界を強引に隣接させる荒業は、確かにスリリングではあるけど、僕が清水に求めるのは、そのもっと先にある世界なのだ…と、そんな思いがあったのだ。

が、果たして上がってきた新作の音を聴いて、僕は唸った。これは、危惧を抱きつつ予想していたものとは違う。5音階と7音階を強引に並べたものではないし、また、ペンタトニック・モード全開ではあるけど、それは単にエティオピア音楽をなぞったものでもない。怪しいメロディがクネクネうねるペンタトニック・モードの楽曲の随所には、バッハに象徴される西洋音楽の対位法的身振りも垣間見えるし、12音技法的なアンハーモニックな響きもあったりする。もっと言えば、クール・ジャズやボサ・ノヴァまで包括した遠大なパースペクティヴを感じさせるのだ。7音階とか5音階とか、あるいは西洋と非西洋とか、そんなことなどはもうどうでもいい、宇宙的とでも言いたくなるような新しいハーモニーと瑞々しい音響が達成されている。あのバッハ作品集でつかんだサックスの新しい表現技法、音響的マジックが、ここでは着実に深化しているのだ。

実は、この完成盤を聴くまでに、僕はリハや録音を見学し、またライヴ(06年9月、六本木スーパーデラックス)も体験しているのだが、それらで得た印象とも、ここにある音は違う。

「リハにリハを重ねて、5人の音のバランスを考え、僕の頭の中で聴こえる音を目指してきた。吹く時のイントネーションを、自分のヴィジョンまでもっていった。皆で吹きながらここまで変わっていったというのは、マライア以来久しぶりですね」  そう清水自身も語るように、この極めてデリケートで玄妙な世界に到達するまでには、かなりの鍛錬が必要だったようだ。サキソフォネッツの新しい4人のメンバーの力量も讃えられるべきだろう。90年代にバッハ作品をコンサートで演奏していたメンバーに比べ、今回の新メンバーには、テクニックもさることながら、より柔軟なセンスが求められたはずだ。彼らは全員が東京藝術大学の出身者、つまりバリバリにアカデミックな場で修行を積んできた者たちだが、4人中3人はチャンチキトルネエドの、2人は東京中低域のメンバーでもあることからもわかるように、非西洋音楽、大衆音楽に対してもフラットなスタンスをもっている。

「今一緒にやっている4人のサキソフォン奏者は、僕のやりたいことを本当に真面目に分かろうとしてくれる。リハーサルがこんなに楽しく次が待ち遠しかったのはマライア以来だ。今回は久しぶりにライヴをたくさんやりたい」と意欲を見せる清水。

思い起こせば、清水がペンタトニックな音楽、非西洋的音楽に対するただならぬ関心を顕にしたのは、最近のことではない。既に80年代初頭のマライアや『案山子』他のソロ作品でもそういう傾向は見せていたし、ヒップなアレンジと演奏で演歌ファンを戸惑わせた北島三郎の「漁歌」も、83年だった。

清水によると、そうした背景には、幼少時の音楽体験が深く影響しているという。熱狂的なアマチュア音楽家でもあった彼の父親は、自分でバンドを作り、様々な楽器を演奏したり作曲したりしていたという。そんな父親に連れられて、清水も幼い頃からダンスホールやキャバレーに出入りし、大人に混じって演奏していた。時は60年代初頭。クラシック、ラテンにジャズ、歌謡曲に民謡と、東西の様々な音楽がチャンポンになった当時の日本ならではのアナーキーな空間におけるこの濃密な体験こそが、彼の表現の根幹にはある。そういう意味では、この新作は、彼のキャリアにおいてとても意味のある作品であり、また、彼でなくては作れなかったものでもある。

ただの受け狙いだったら、エチィオピア音楽をそのままガツンとコピーしたり、あるいは、エティオピア音楽とバッハを交互に入れる方がわかりやすかったのかもしれない。しかし彼はそうしなかった。というか、彼にはできなかった。なぜなら、彼はDJ(編集者/リプレゼンター)ではなく、とことん音楽家だから。  神秘と野蛮が一体化したこの新しい音響空間が、今後、世界中でどのようなエコーを広げていくのか、誰にもわからない。
(松山 晋也)